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弁護士とんぐうの弁論準備

裁判例のメモとか。

はじめに

 本ブログをご覧いただきありがとうございます。

 本ブログは、僕が近時の裁判例の検討をまとめるために開設したものです。

 雑感を書き散らした程度ですので、ブログの記事や記載内容をなにかに引用したりすると、恥をかきます(主に僕が)。

 コメント欄に何か法的なツッコミがあった場合、気力・体力・時間が充実していて気が向けば、回答します。

 時事ネタや弁護士の生態等についても書くことがあるでしょうが、あくまで裁判例検討が主になるようにしたいと思います。

 コンタクトは、n-tongu@mizuta-law.jp(半角に直してください。)まで。なおメール、電話での法律相談は受けておりません。

 以前は住宅のセールスをしていたり、お役所で許認可権をふりまわしたりしていました。元検事とか元マスコミとか手短なキャッチフレーズがなくて無念であります。

 

嫡出推定を受けた子について,DNA鑑定で生物学上の父子関係がないと判明した場合の親子関係不存在の訴えについて

最高裁平成26年7月17日判決(第一小法廷)

【事案の概要】

 Y(父親)はX(子)の母Aと平成11年頃婚姻した。AはB(浮気相手)と平成20年頃から交際するようになったが,Yとの同居を継続していた。平成21年にAはXを出産した。YはAから,出産したXは別の男性との子であると知らされたが,XをYA間の子とする出生届を提出し,監護養育した。

 その後YとAとは,平成22年にXの親権者をAとして協議離婚し,XはAとBと生活している。

 Aは平成23年,Xの法定代理人として親子関係不存在の訴えを提起した。なお,X側で行ったDNA鑑定に寄れば,BがXの生物学上の父親である確率は99.999998%であるとされていた。

 旭川家裁,札幌高裁はいずれも,科学的証拠により客観的かつ明白に証明されていること,子の母と夫が既に離婚して別居し,子が母親に養育されていることから,嫡出の推定が排除されると解するのが相当であるとして,親子関係不存在確認の訴えの適法性を肯定し子の請求を認容すべきものとした。

 

【判旨】

 原判決破棄,訴え却下。

 嫡出の推定を受ける子につきその嫡出であることを否認するためには,夫からの嫡出否認の訴えによるべきものとし,かつ,同訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは,身分関係の法的安定を保持する上から合理性を有するものということができる。

 夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから,上記の事情が存在するからといって,同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。

 

【解説】

 結婚している女性が産んだ子は,とりあえず夫の子と推定されます。これを嫡出推定といいます。これを争うのは,基本的には夫から「俺の子じゃない!」という訴えを起こす他ありません。これを嫡出否認の訴えといいます。しかし,この訴えを起こせるのは1年以内と定められています。後からわかっても今まで育てた子を俺の子じゃないと拒否するのは可哀想でしょう,という趣旨です。

 もっとも,結婚中に生まれても,夫が刑務所に入っているとか,明らかに夫の子ではない事情がある場合は,「推定が及ばない子」ということになり,後からでも親子関係不存在の確認を求めることができます。これは,夫以外にも,子や妻や利害関係人が提起することが可能です。

 さて現代では,DNA鑑定が身近になったことにより,結婚中に生まれた子が,別の男性と父子であることが科学的に判定できるようになりました。

 そうすると,夫の子ではないことが,科学的に明らかなのですから,刑務所に入っている間に生まれた子と同様に,「推定の及ばない子」であり,子から父子関係について争えるのではないかと考えられますね。事実,近年,DNA鑑定書類をつけて,生まれてから数年後,場合によっては10数年後に親子関係を争うケースが増えました。

 市民感覚としては,DNAが違うんだからそれでいいじゃん,と思うのですが,今回の判例は,DNAが違っても,法的な父子関係が後から覆されるのは法の趣旨に反する,という観点から,そうした争い方は不適法であると結論づけました。

 これは,法律解釈という側面からすればいたしかたないと思います。補足意見でも,解釈論を越えており,立法政策の問題であると指摘されています。つまり,時代に合わせて法律を改正してくれよ,ということです。

 浮気相手との子が夫の子として戸籍に乗るのが嫌で,届出をしないというケースもありますし,代理母が産んだ子や第三者からの精子提供を受けて産んだ子はどうするのか,現代の親子関係と法のすりあわせは,課題が山積みです。

 ちなみに,私もDNA鑑定で実の子ではないとはっきりしたので親子関係を否定したい,という父親から依頼を受け,訴えを提起したことがあり,自分の事件の判決期日直前にこの最高裁判決が言い渡されたというニュースを聞いて青くなったという経験があります。私のケースは,相手方も別にいいよ,という感じだったので希望通りの結論になりました。いろいろ裁判例なども調べましたし,極めつけがこの最高裁判決ですので,思い入れがありますね。

警察官による取り調べが不当な態様であったとして,損害賠償が認められた事例

【事案の概要】

 傷害事件の被疑者として,任意で(つまり逮捕されずに)取り調べを受けていた原告が,警察官から,恫喝・脅迫的,あるいは侮蔑的な言葉をかけられ,指紋の押捺の強要や調書の記載内容の訂正を無視するなど,不当な取り調べを受けたとして損害賠償を求めた事件。

【判旨】

 行きすぎた犯罪捜査があったと認定し,慰謝料として100万円が相当と判断した。

 裁判所の認定した警察官の発言「さっさと認めろ,殴ったやろ」「なあ,小学校の先生やってきて,ようあげくこれですか」「恥ずかしいと思いませんか」「ガキやから,適当に言うとったら,あしらっとったんちゃうん。ええ,12歳のガキまで,適当にあしらっとったら,先生,先生言うてくるから,適当に答えとったんやろ」」「人間やっぱり年っていうたらプライドだけが残るな」「ぐじゅぐじゅ,ぐじゅぐじゅ否認たれる」「じゃあ誰が嘘ついてんや」「知らんは通さん」「考えろ。これ命令やで」

 こうした言動は,社会通念上相当性を逸脱した態様で供述や自白を強いるものであり,不当な人格攻撃に及ぶ発言を繰り返すものであって,全体として社会通念上相当性を逸脱した違法な取り調べであった,と判示した。

【解説】

 ちなみに,大阪府警でのできごとです。

 被疑事実は傷害で,被害者からは,「原告に胸ぐらを掴まれげんこつで一回殴られた」という被害申告がなされていました。

 原告は身に覚えがないと主張していますので,原告か被害者か,どちらかが嘘をついているということになりますね。こうした場合,とりあえず双方の言い分を聞いた上で,それぞれの話を裏付ける客観的な証拠があるか無いかを探すのが常道だろうと思いますが,まあちょいとひねって自白をすれば,楽ができるというものです。

 今回,録音することができたため,違法な取り調べを受けたことが明らかになりましたが,録音が無くて原告の記憶だけ,となると裁判所が原告の証言を採用してくれるかどうかは怪しいものですね。この事件は大きくニュースで取り上げられましたから,全国の警察署で,取り調べ前に録音されていないか徹底的にチェックすることになったかもしれません。

 厳しい取り調べによって言い逃れをしていた真犯人が耐えきれずに自白し,真相が明らかになるということもありますが,一方で,厳しい取り調べを行えば,無実の人が精神的に耐えられず嘘の自白をしてしまうこともあります。

 自白が本当に本人の意思によるものなのか,今回のような不当な取り調べがなされていないのか,全ての取り調べに関して録音録画を実施すべきでしょう。

 一発殴られて打撲傷,というレベルでも,「私はやっていません」と言うとここまで追い込んでくるのですから,もっと深刻な事案で否認した場合に,捜査側がどのように取り扱ってくるかというのは想像するに恐ろしいものですね。

自動車を用いた連続窃盗等事件について,GPSを利用して行われた捜査について,令状がなく行われた強制処分であり,得えられた証拠等は証拠能力無しとした事例

【事案の概要】

 警察は,当時多発していた窃盗事件について,そのうちの一つは現認しており,被告人及び共犯者の逮捕自体は可能な状態であったが,連続窃盗事件であり,事案の全容を確認しつつさらに客観的な証拠を収集しようと考え,内偵捜査を継続した。

 この際,①被告人らのアジトと目された場所を監視し,公道や,近隣で借りた集合住宅から被告人らの様子を撮影・記録し,②郵便ポストの隙間から内部の郵便物を撮影し,③被告人らが使用していると疑われた車両19台に対してGPS端末を取り付けて,位置情報を取得した。なお,端末のバッテリーは4日ほどで切れるため,警察官らは,商業施設の駐車場等で端末の交換を行っていたが,これを行うに際して当該施設の管理者の承諾を得ておらず,令状の発付も受けていなかった。

【判旨】

 逮捕可能な状態からさらに泳がせること自体は,共犯者の逃亡・証拠の散逸を防ぐという意味で合理的であり,身柄拘束をせず捜査を続行したことは許される。

 捜査方法として,①による監視は,公道や他者の住居等から見ることのできる部分を記録したというにすぎず,そもそもプライバシー侵害の程度も薄い。

 ②については,通信の秘密との関係や,プライバシー保護の期待の高い空間であること,原則として郵便受け内部の捜索には令状が必要であることなどの事情からすれば,ポストの内部を撮影した行為は,差出人や受取人のプライバシーを大きく侵害し,令状が必要な強制処分に該当するから,無令状で行われた今回の捜査は違法である。

 ③については,公道以外の場所(今回の場合ラブホテルの駐車場も含まれていた),つまりプライバシー保護の要請が高い場所に所在する場合にも位置情報を取得しており,プライバシー侵害の程度は大きい。

 また,端末の取り付けや取り外しの際には不可避的に私有地に立ち入ることも想定されているが,本件では多数の者が自由に出入りすることが予定されていない場所での交換もなされており,私有地の管理権を侵害する形で行われていることも見逃せない。

 GPS捜査は,捜査官が位置情報を五官の作用によって観察するというものであるから,検証許可状を取り付けるべきであった。したがって,令状無く行われた本件捜査は違法である。

 そして,これらの捜査に際しては,令状を取り付けようと努力した形跡はなく,検察官にも伏られており,令状主義を没却し,将来の違法捜査防止の見地より,証拠能力を排除すべきと考える。

【解説】

 逮捕や捜索・差押え等をするにあたっては,裁判所の発付した令状が必要とされています。これは,犯罪と疑われる場合であっても,きちんとした手続に則って取り扱われるべき権利が憲法上定められているからです。

 近年,X線照射によって所持品をこっそり検査するとか,公道上の無人撮影機によって,ある時間にある場所にいたことを証拠化するなど,刑事訴訟法を定めた頃には想像もしていなかった捜査手法について,令状が必要なのかどうなのかについて議論されています。

 令状が必要かどうかは,「個人の意思を制圧し,身体,住居,財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など」にあたるかどうかがメルクマールとなっています。

 X線やGPS端末による捜査は,それによって被疑者の意思を制圧するようなものではないので,強制捜査ではない,つまり,令状は必要なく警察が勝手にやっていい,という解釈で,警察が捜査をしていたのですが,今回,GPSによる捜査について違法と判断されたのでした。なお,X線検査についても,別事件で強制処分であるとの認定がなされています(最判平成21年9月28日判タ1336号72頁)。

  なおこの事件,検察官が控訴して高等裁判所では強制捜査ではないとされ,さらに上告されて最近,最高裁判決がでました。控訴審最高裁の内容はまた後日。

職務質問を受けた者の呼出に応じて現場に臨場した弁護士が,職務質問に応じない旨明確に示しているのに,これを無視する形で行われた有形力の行使が任意捜査の限界を超える違法とされた事例

東京高裁平成27年10月8日判決

【事案の概要】

 被告人は,午後7時7分頃,職務質問を受けたが,氏名を名乗らず,所持品検査の求めにも応じなかった。その後,警察官らと共にローソンに移動したが,この間も,警察官らは被告人の移動を,身体を押すなりして妨害している状況であった。

 午後9時27分頃,被告人は,自分が呼んだ弁護士と合流し,タクシーに乗車した。

 なお,タクシーを探して移動している最中,警察官は20名で被告人らを取り囲み,このとき,警察官から制止されたかなんらかの事情で,被告人が転倒することがあった。

 この間,午後7時35分頃から,別の警察官が令状請求準備を開始しており,午後9時56分頃,発付された令状を受け取っていた。

 午後10時10分頃,パトカーでタクシーを追従していた警察官は,タクシーが首都高速入口へ近づいたため,令状執行をするに際して高速道路では困難だと考え,タクシーに停車を求め,これに応じたタクシーが停車すると,その周囲を包囲して移動できなくした上で,一般道を走行するよう求め,これに被告人らが応じたことから,タクシーの前方を空けて走行可能な状態にしたが,おりから,令状を携行した警察官が現場に到着したため,令状を執行した。

 警察官により被告人の身体捜索がなされたところ、覚せい剤が発見された。

 その後裁判において弁護人が上記経過は違法捜査でありその結果発見された覚せい剤を証拠として用いることは許されないと主張して無罪を争った事案。

 

【判旨】

 原判決破棄。

 被告人は有罪。

 高速道路への進行を妨害した時点では,捜索差押許可状は所持しておらず,また,弁護士から再三抗議を受けても,タクシーを動けない状況にしたのは,任意捜査の限界を超えている。

 したがって,原審がこの点を適法と認定した点は誤っている。

 もっとも,進路封鎖は短時間であり,既に発付されていた令状の執行を円滑にするためであり,令状主義を潜脱しようとする意図が警察官らにあったとまでは言えない。

 よって,現場での令状による捜索によって発見された覚せい剤を証拠として採用することは適法である。

 

【解説】

 結果的に覚せい剤持ってたんならアカンのとちゃうか,というのが一般的な感覚かと思われますが,結果論でOKとなると,怪しければ法律を無視してもいい,ということになってしまい,見た目が怪しいというだけで警察官から無茶な取り扱いを受けてしまいかねない,ということになってしまいます。令状というのは,裁判官が鼻くそほじりながら適当にハンコ押しているようにしか見えないようでも,一応,中立の司法機関が要件をチェックしているということになっていますので,原則としては,令状無しでの逮捕や捜索は許されていないのです。

 一方で,職務質問をして答えてくれないからしょうがないか,では治安が守れないというという事情もあるので,職務質問に非協力的な人間に対しては警察官がすごい勢いでまとわりついてきますし,1,2時間取り囲まれて動けなくされても,裁判所はそんくらいならOKという態度を取っています。

 今回の事案では弁護士が出てきて協力しないよと明確に告げて移動しようとしているので,これでも移動を妨害されるのがOKとなると,弁護士の権威が地に墜ち――じゃないかった,事実上職務質問は何をしても良いって事になりかねません。

 すでに職務質問をお断りして車で移動を開始したのに,令状を現に持っているわけでもないのに車を止めさせて進路妨害している警察官の行為について,適法だとした第一審の裁判官の感覚には驚きです。

 というわけで,さすがにこの点については違法を宣言したようです。

 で,違法な職務質問が先行していて,進路妨害も受けている中で,捜索差押令状が届いたので調べてみると,覚せい剤が出てきた,という流れになっています。

 ここで,どんな違法な捜査であろうが覚せい剤が出てきさえすれば動かぬ証拠,とすると,結局違法な職務質問をしていても結果オーライということになりますよね。

 そこで,違法捜査に歯止めを掛けるため,本来令状がなければできないようなことを,令状無しでやってしまって,それで出てきた証拠で有罪にするというのでは,令状の意味が無くなってしまうから,証拠として使えません,という判例ができました。

 所持品検査とか職務質問のいきすぎが争われた事案はたいてい,実際に薬物を持っていたので執拗に拒んだ事案が多いです。まあ,後ろ暗いところのない一般人は,あくまで任意だから応じる必要はないと貫き通すようなことはしませんので,なにも悪い物を持っていないのに多数の警察官らから執拗な説得を受けて数時間も無駄にさせられる,ということはないのですね。したがって,事例として出てくるのは結果オーライの事案(つまり,ちょっとやりすぎたけど実際持ってた)ばかりです。

 そうした実情もあってか,最高裁は,覚せい剤使用が疑われる人間に職務質問した警官が,被疑者が運転していた車の鍵を奪い取って,6時間に渡ってその場に居させ続け,強制採尿令状が来るのを待っていた事案でも,OKとしています(H6.9.16判決)。

 日本の刑事司法の実情からすれば,今回の結論も非常識なものではない,ということになるでしょう。しかし,何も後ろ暗いことのない一般市民が,令状がないから協力できないと告げて,過度の負担を負うようなことがあっては困ると思うのですが……。

保険代理店で活動していた原告が給与を不当に下げられ退職に追い込まれたが,解雇とは判断できず,給与減額の慰謝料のみ認めた事案

【事案の概要】

 原告は,個人で三井住友海上火災保険株式会社の代理店を営んでいたが,その後代理店を廃業し,被告会社に入社した。

 その際,代理店業を営んでいた頃の顧客を持ち込むことにより,被告会社の営業にも寄与したが,被告会社はこの契約を奪取し,奪取後は原告の給与を不当に減額し,やがて退社に追い込んだものであって,①契約喪失の財産的損害について不法行為責任,②解雇無効と在籍し続けた場合に得られた給与額,などを求め訴訟提起した事案(三井住友も被告)。

 一審では,保険契約喪失は認めず,解雇無効を認め,判決確定の日まで給与額を支払うよう判決した。これに対し,会社側が控訴

 

【判旨】

 会社は慰謝料として250万円支払え。原告のその余の請求は棄却あるいは却下。

(認定事実のあらまし)

 原告は,平成13年に三井住友の代理店として営業を開始した。

 その後,被告代表者から誘われ,平成18年に原告は被告会社に入社した。この際,代理店業務と保険契約は被告が引き継ぐこととなり,原告の給与は30万円と定まった。

 原告が保有していた契約を引き継ぐことにより,被告会社は代理店としてのランクが上昇した。

 平成21年秋頃,被告は原告に対して,11月分は27万円,12月分は24万円,1月分は20万円と言及し,今後は毎年3月末の業績に応じて給与を決定する,と通知し,通知通り減給した。

 原告は,代表者に対して直ちに異議をとなえなかったものの,他の役員に不平を述べることはあった。また,三井住友に対して労働条件引き下げに関する問い合わせをした(三井住友は,代理店内部のことなので関知しないとの回答)。

 被告会社は平成22年5月分として17万4000円を支払った。

 原告は6月頃,給与の減額に応じるつもりはないと被告代表者に伝え,あわせて,期間3年の有期労働契約の締結と,退社の際には保険契約を返すように,との要望をしたが,決裂した。

 被告会社は,8月20日付で解雇するとの通知を7月27日に交付し,8月20日に,4月までの給与について月給30万円との差額について一括で支払った。

 原告は,7月のうちに解雇に関して労基署に相談し,また,三井住友に対して保険契約を返してもらって再び代理店として独立したいとの要望を行った。これに対し三井住友は,契約を戻すことはできかねるとの回答をした。

 原告は,7月29日,8月20までの有給休暇申請を行い,以後出社しなかった。

 

(判断のあらまし)

 原告が被告に移管させた保険契約がなければ,被告は特級代理店への昇格の条件を満たさなかったものであるから,原告の被告に対する寄与は少なくなかった。それにもかかわらず,給与を段階的に減額し,原告が退社するにいたっているが,これは被告が原告を退社せざるを得ない状況に追い込んだということができ,不法行為責任を免れない。

 なお,退社までの経緯を見れば,結果的には被告会社が原告から保険契約を奪い取ったと評価する余地もあるが,移管手続は適法になされている一方,原告が退社する際の取り扱いについては別段の合意はなされていない。したがって,被告会社が原告に対して保険契約を返還すべき義務又は代償金を支払う義務が発生する法的根拠はない。

 ところで,原告は解雇されたと主張しており,確かに離職票にも,解雇無効の裁判を予定しているとの記載があるが,原告は,有期労働契約を結ばなければやめると発言していること,最後に有給休暇を申請して出社せず,その後東京海上に就職(代理店のための研修として)しており,本件訴訟においても当初は不本意な退社をさせられたとの点を問題としていた。したがって,原告は被告から解雇された形になってはいるが,実質的には原告が退社したと認めるのが相当である。

 

【解説】

 まずなにより,会社から解雇通知を受けているのに,自主退社したとの結論はさすがに違和感を覚えざるを得ない。まあ実際の証拠状況から,体裁は解雇だが実質は合意解除と認定したんだろうが,判決文の事情だとそんな認定ができるんだろうか,という印象。

 認定された事実からは,私は不当解雇と認定すべきと考えますし,実際,一審でも不当解雇と判示されているんですよね。これが覆ったのは原告本人としても代理人としてもきついだろうなあ。

 なお,保険契約の奪取については一,二審通じて認めてもらえなかった模様。事案の全体像からすれば,被告会社の不当利得にあたるように思いますが,理論的に厳しいですかね。まあ,退職した場合の取り扱いを決めてなかったのは原告の手落ちというべきでしょう。そこは当然,退職時に誠実に話し合おう,ということになっていたかもしれませんが……。

 

「シャンパンタワー」という商標は認められなかった事例

知財高裁平成24年12月19日判決】

 判例タイムズ1395号掲載

 

【事案の概要】

 原告は「シャンパンタワー」という商標を登録した者であるが、同商標登録について特許庁が無効審決をしたため、その取消を求めた事案である。

 

【判決要旨】

 請求棄却。

 「シャンパンタワー」のうち「シャンパン」はフランスのシャンパーニュ地方で作られる発泡性葡萄酒を意味する名称である。シャンパンは、発泡性葡萄酒を代表するほど著名であり、一般消費者にも、シャンパンと言えばフランスのシャンパンのことを意味するものとして知られている。

 シャンパンの周知著名制や信頼性を確保するため、ぶどう生産者やぶどう酒製造者を厳格に管理・統制し、厳格な品質管理・品質統制がなされてきており、シャンパンはフランスの文化的所産とも言うべきものになっている。我が国でも、シャンパンという表示には高い顧客吸引力が化体するに至っている。

 以上のような、本件商標の文字の構成、指定役務の内容、商標中の「シャンパン」の表示の有する意義等に照らせば、本件商標を飲食物に関連する指定役務に使用することは国際信義に反するものと言わざるを得ない。

 

【解説】

 宝石の名前としての「シャンパンサファイア」、ウーロン茶として「シャンパン烏龍」、貴金属として「シャンパンシルバー」、被服として「シャンパンアイボリ」、などいろいろな「シャンパン」がつく商標が無効になっているようです。どれも本件同様、「シャンパーニュ地方ぶどう酒生産同業委員会」が無効の申立をしているようですな。