弁護士とんぐうの弁論準備

裁判例のメモとか。

児童ポルノ画像へのリンクURL掲示行為が公然陳列にあたるとの判断が維持された事例

【最高裁平成24年7月9日】

 判例タイムス1383号掲載

 

【事案の概要】

 被告人は、自身が運営していたウェブサイトに、第三者が設置したハードディスクに記憶された(他のインターネット上の掲示板に貼り付けられていた)児童ポルノ画像へのURLを貼り付けた。貼り付けたURLは一部があえてカタカナにされていた。

 このことが、児童ポルノの公然陳列にあたるとして、公訴提起されたところ、一審、二審とも有罪とされたので、被告人が上告した事件。

 被告人は、URLを掲載することは陳列にはあたらないなどと争った。

 

【判決の要旨】

 上告棄却。

 上告趣意は適法な上告理由にはあたらない。

 

【反対意見】

 わいせつ物陳列罪(刑法175条)の「公然と陳列した」とは、わいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい、その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要しないとするのが最高裁判例である(最高裁平成13年7月16日)。このことは児童ポルノ法の「公然と陳列した」にも該当する。

 しかし公然と陳列したとされるためには、既に第三者によって公然陳列されている児童ポルノの所在場所の情報を単に情報として示すだけでは不十分であり、当該児童ポルノ自体を不特定又は多数の者が認識できるようにする行為が必要である。

 本件被告人には公然陳列罪は成立せず、幇助罪が成立する可能性があることから、原審を破棄して差し戻すのが適当である。

 

【検討】

 リンクにせず単にURLをはっつけても、そういうご趣味の人がたくさんいるところでやれば、画像を貼るのと同じということのようです。

 URLを貼るのは児童ポルノの所在情報を示しているだけですが、極めて容易にアクセスできる手段を与えますので、それ自体陳列というのもありえる考え方ではあると思います。

 私は当初、雑居ビルの一室で児童ポルノを陳列してますよ、とポスターで場所を教えてるのと同じなんだから、陳列の幇助にすぎないと考えましたが、URLの特性上、「この覗き穴から見えますよ」と覗き穴を設置しているのと同様に考えるべきかなと思いました。

 とはいえ控訴審では、「閲覧者に対して児童ポルノの閲覧を積極的に誘引するものかどうかという点も、児童ポルノの「公然陳列」に該当するか否かの判断につき重要な要素である」などとされており、そんなん条文のどこに書いてんねん、という気がしますのでやや納得しかねます。ことほどさように、裁判所は検察官に対し物わかりが良く、いろいろ理屈をつけて有罪にしたがる癖があります。

 控訴審もやはり単に英数文字の羅列を記載しているのを陳列と直ちに言うのはためらわれたのでしょう。周辺状況から誘引性が高ければ、閲覧者からすればリンクされているのと変わりがない、という理屈のようです。

 なお、日本の裁判は三審制です、と義務教育で習いますが、実のところ最高裁で判断してもらうにはせま~い関門をくぐらなければならないのです。刑事裁判で上告するには、(1)控訴審判決が憲法違反、(2)控訴審判決が判例違反、(3)判例がない重要な法令解釈に関する問題を含んでいる、のどれかにあてはまらなければなりません。

 この被告人も、一所懸命憲法違反を訴えたのですが(まあ書いたのは弁護人ですが)、単なる法令違反や事実誤認等を言っているに過ぎない、としてさくっと棄却されてしまいました。

 いや、控訴審判決に法令違反や事実誤認があったらあかんやろう、と思うのですが、最高裁は動いてくれないということになっています。まあ実際にはイロイロあるんですけど。

 ちなみに裁判官2人は棄却すべきではない、として反対意見を書いています。最高裁小法廷は裁判官5人構成ですから、実はこの判決は3:2の僅差だったんですね。