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弁護士とんぐうの弁論準備

裁判例のメモとか。

子の引渡につき必要性を厳格に解した事例

【東京高裁平成24年10月18日】

 判例タイムズ1383号掲載

 

【事案の概要】

 当事者らは、平成19年ころから婚姻し、翌年長男をもうけ、マイホームも築いた夫婦であったが、妻が署名押印した離婚届を置いて、長男を連れて実家に戻った。

 2か月後、夫が自宅に連れ帰った。その晩、夫から妻に電話をかけ、「パパがいい、帰りたくないと言っている。」などと連絡し、妻も「それなら泊まってきてもいいよ。」と応じた。

 翌日、妻やその親らが夫に早く子を連れてくるよう求め、夫が子を連れてきたものの、子は実家の玄関口で「パパがいい。」といって泣くので、妻もしかたないと考え、親も「一日二日めんどうを見てくれ。」と言った。さらに翌日、妻は、事前の連絡なく夫の自宅を訪問したが連れ帰るには至らなかった。この際、子も「ママ」と呼んでついて行こうとは全くしなかった。

 妻は2週間後、審判を申立てるとともに、審判前の保全処分として子の引渡を求めたところ、原審がこれを認めたため、同執行に対し夫が抗告した事件である。

 

【決定の要旨】

 原審判取消。

 審判前の保全処分として未成年者の引渡を命じる場合には、監護者が未成年者を看護するに至った原因が強制的な奪取又はそれに準じたものであるかどうか、虐待の防止、生育環境の急激な悪化の回避、その他の未成年者の福祉のために未成年者の引渡を命じることが必要であるかどうか、及び本案の審判の確定を待つことによって未成年者の福祉に反する事態を招くおそれがあると言えるかどうかについて審理し、引渡の強制執行がされてもやむを得ないと考えられるような必要性があることを要する。

 

【検討】

 『審判前の保全処分で夫から妻へ→抗告審において不当として取消し、妻から夫へ→監護者を妻と定め、監護者に引き渡すよう命じる本案確定し、夫から妻へ→本案後離婚訴訟が提起され、夫を監護者と定める判決が確定し、妻から夫へ』と理論上は何度も子供の身柄がキャッチボールのように行ったり来たりします。裁判所はそうならないような解決を図ります。

 少なくとも、保全処分、つまり仮にめんどうを見る親を決める、という場合には、よほど相手方が悪質でなければ認められません。法的には、子の引渡の必要性につき、家事審判法15条の3第7項準用民事保全法23条2項に則って厳格に絞り込んだというものです。

 今回の事案で、妻が最初に子を渡さないよう細心の注意を払っていれば逆に夫側から引渡を仮処分として求めるのは困難だったのではないでしょうか(もちろん妻が虐待をしているとかの事情があれば別です。)。