弁護士とんぐうの弁論準備

裁判例のメモとか。

連帯保証契約が銀行担当者の虚偽を含む説明によりなされたものであり無効とされた事案

【東京高裁平成24年5月24日】

 判例タイムズ1385号掲載

 

【事案の概要】

 Aは、B銀行から4.5億円の借り入れをして、商業ビルを購入した。このとき、Aの兄である控訴人は、Aの借入金のうち2.5億円について連帯保証した。

 この連帯保証契約の際、B銀行の担当者は、「お兄さんには一切迷惑がかからない。」などと説明していた。

 B銀行は経営破綻したため債権回収機構が債権の譲渡を受けていたが、その後Aが支払を怠るに至ったため、控訴人に対し残債務1.5億円の支払を求めたところ、控訴人が話が違う、と支払を拒んだ事案。

 なお1審では、契約当時は十分な担保余力があり、B銀行担当者の詐欺や錯誤ではないと判断し、保証債務を支払うべきとの判決だった。

 

【判決の要旨】

 原判決取消、請求棄却。

 控訴人は突如、弟と銀行担当者の訪問を受け、その場で2.5億円の保証人になって欲しいと言われて、その席において連帯保証契約の締結を承諾している。控訴人は給与所得者であり、2.5億円の支払いをする見込みなどなかったのであるから、兄弟関係があるとしても、そのような巨額の保証契約に直ちに署名押印すると言うことは通常であれば考えにくい。つまり、控訴人が即日これに応じたのは、銀行担当者が「10億の物件が4.5億で買える」「(控訴人が保証する)2.5億も、物件がちゃんとのこる」「お兄さんには一切迷惑がかからない」などと発言したことにより、仮に弟Aの支払が滞ったとしても、貸付額に十分な担保余力があり、B銀行が自分の責任を追及するような事態には至らないと考えたことによると見るのが自然である。

 なおB銀行は、融資にあたって、査定によれば7500万円のリスクがあると判断していた。したがって、B銀行の把握していた本件ビルの査定額は約3.75億円であった。また、収益性を含めた査定額では5億円程度と見込んでいたものの、仮にこれが適正な査定だとしても、担保権の実行の場面での担保価値とは異なるのである。

 したがって、B銀行担当者の発言はいずれも事実ではなく、また、控訴人に対し、B銀行の査定基準によれば担保が不足している(保証債務の履行をせまられる可能性がある)という事実も告げられなかった。

 確かにB銀行は、控訴人の資産状況等の資料を提出させておらず、B銀行としても物件から回収できると考えていたとの主張も一理ないではない。しかし、そもそも、確実に物件ないし物件の収益から貸付金が返済されるのであれば、連帯保証人を求める必要もないのであり、B銀行担当者が虚偽を述べていたわけではないとの弁解は採用できない。

 そうすると、控訴人は担当者の発言から事実を誤信し、誤信した事実を動機として、本件連帯保証契約を締結したのである。そして当事者間で動機の表示があったことはあきらかである。したがって、本件契約は錯誤無効というべきである。

 なお、債権回収機構はAから債権譲渡について異議をとどめない承諾を受け、また控訴人も、Aの承諾内容を承認し引き続き保証するとの書面に署名押印している。しかしこれは、主債務の債権譲渡を了知したこと及び控訴人が連帯保証人であることを確認したものにすぎず、保証債務の債権譲渡について異議をとどめない承諾をしたとみることはできない。仮にそれにあたるとしても、控訴人は当時無効事由を知らず主張し得なかったのであるからやむをえない。

 

【検討】

 銀行内部では担保割れの可能性を示す調査結果があるのに、保証人に対しては問題ないと説明し、保証を取り付けた事案。こう書くとそらアカンやろ、となるが、(1)保証契約書に署名、(2)銀行員が面談して説明、(3)契約時の担保余力自体はそれなりにあったとも考えられる、(4)債権譲渡の際も確認している、などの事情もあり、正直、苦しい戦いになるなと感じる。実際、一審では負けてるし。

 とはいえこれは勝たなければいけない事件、というやつであろう。本件の証拠収集の段取り・苦労についても代理人にお聞きしてみたいものである。