弁護士とんぐうの弁論準備

裁判例のメモとか。

債務名義があっても仮差押できるとした事例

【東京高裁平成24年11月29日決定】

 判例タイムズ1386号掲載

 

【事案の概要】

 XはAの破産管財人であるが、AはYに対し金銭債権を有しており、これについて執行認諾文言付き公正証書を作成していた。そこでXがYに対し、債権執行を行うべく、Yの財産保全のため仮執行の申立てをしたところ、権利保護の必要性無しとして却下されたので、Xが抗告した事案。

 

【決定の要旨】

 原決定取消。

 仮差押命令は、民事訴訟の本案の権利の実現が不能あるいは困難となることを防止するために、債務者の責任財産を保全することを目的とする民事保全処分である。債務名義を有している場合は、原則として民事保全制度を利用する必要性は認められない。

 しかしながら、債務名義を有している場合であっても、すみやかに執行を行うことができないような特別な事情があり、債務者が強制執行が行われるまでの間に財産を隠匿又は処分するなどして強制執行が不能又は困難となるおそれがあるときには、権利保護の必要性を認め、仮差押を許すのが相当である。

 これを本件についてみてみると、Xは破産管財人であって、公正証書により債権執行を行うには、承継執行文を得てこれを公証役場から送達し、その送達証明書を添付して債権執行の申立てを行わなければならない。そうすると、相手方にXが強制執行を準備していることを予想させ、本件仮差押債権の弁済期がせまっていることからすれば、弁済を受けるまで送達を受領しないおそれもありえるから、上記特別な事情がある場合にあたると認める。

 

【検討】

 債務名義がある場合は、強制執行できるから、本来的には仮執行する必要がないところ、場合によっては、強制執行まで時間がかかったりその間に財産隠しをされたりするような可能性がある場合には、権利保護の必要性があるから、仮執行してもいい、ということ。ですよねー。

 まともにやってると回収できなくなる、という事情をしっかり疎明できるかがポイントでしょう。

 ちなみに、執行すればいいでしょ、ということで、保全の必要性無しと判断された場合もあるようです(判決文未確認。東京高裁平成20年4月25日決定・判例タイムズ1301号)。

 保全の必要性の有無なのか権利保護の必要性の有無なのかは見解が分かれている様子。そこんところは学者先生にお任せします。正直どっちでもいいと思うんだが。