弁護士とんぐうの弁論準備

裁判例のメモとか。

預金口座についての弁護士会照会に対する報告義務が認められた事例

【東京地裁平成24年11月26日判決】

 判例タイムズ1388号掲載

 

【事案の概要】

 Xは、Aに対する債務名義を有しており、これについてAの銀行預金に対して差押をしたが、残高がなく、その他把握できたAの財産すべてについて各種強制執行を行ったがいずれも功を奏しなかった。そこでXから債権回収を受忍していた弁護士が、弁護士会を通じて、「YにはA名義の口座があるか、ある場合はその支店名や口座番号、預金残高等を回答されたい」などと弁護士法23条の2に基づく照会をY銀行に行ったが、Y銀行は預金者の同意が確認できないとして回答を拒んだ。

 そこでXが、Yには報告義務があることの確認を求めて提訴にいたった事案である。

 

【判決要旨】

 Yには報告義務がある。

 弁護士会照会制度は、国民の権利救済の実現に資するという司法制度上の要請に基づき、法律により報告を求める権限を弁護士会に定めたものであり、正当な理由がない限り、照会を受けた団体等は報告をすべき公法上の義務を負っている。

 照会制度の重要な役割や、決済機能を独占しているという銀行の公共的責務からすれば、単に顧客の同意がないとの理由のみで報告を拒む正当な理由があるとは言えない。

 Xとしても、執行すべき財産を手を尽くして探索したが発見できず、財産開示手続により債務者の財産が開示される見込みもないのであり、Xの実効的な権利救済のために報告を求める必要性が極めて高い。

 一方銀行としては、Aの預金状況は、債権者であるXとの関係において保護されるべき営業秘密(顧客や関係者に対する守秘義務に基づく秘密)とは言えないことが明らかである。

 したがって、Yは弁護士会に対し、報告義務を負っている。また、Yが公法上の義務を履行しないことによって債務名義による債務者に対する権利の実現が妨げられているのであるから、Yによる権利実現の妨害を排除して権利救済を受けるため、報告義務のソンすることの確認を求める利益がある。

 

【解説】

 弁護士には、弁護士法23条の2という法律に基づいて、弁護士会を通じて企業や病院、官公署等に対して質問書を出すことができます。

 もちろんなんでも聞けるというわけではなく、一定の必要性とその内容の関連性について弁護士会がチェックした上で送られてきます。

 ところが結構無視されるんですよね。法律上の義務なんですけど。裁判所が依頼するとホイホイ答えるのにね。

 あくまで弁護士会が報告を求める、という体裁のため、照会を求めた弁護士やその依頼人が裁判の原告になって報告を直接請求できない、あるいは、回答しないところを相手にいちいち裁判をするコストを依頼人に負担させられない、といった事情から、これまで弁護士会照会を無視されても泣き寝入り(弁護士が!)していたのですが、やはり判例は作らないといけませんね。

 銀行の預金状況なんて、守秘義務があるから、とこれまで拒絶されてきたわけですが、この裁判例のおかげで、手順さえ踏めば回答してもらえるようになるかもしれません。