弁護士とんぐうの弁論準備

裁判例のメモとか。

柔道の練習中の事故について顧問に過失が認められなかった事例

【横浜地裁平成25年2月15日判決】

 判例タイムズ1390号掲載

 

【事案の概要】

 柔道部在籍の原告が、試合前の練習において部員に投げられた際、急性硬膜下血腫を発症し、寝たきり状態となる事故が発生した。

 原告は17日前の練習で脳しんとうを起こしており、試合前の練習で以前の脳しんとうの際に弱体化していた血管が断裂したことがわかっている。

 原告は4/16の練習中、脳しんとうを起こしたが(この時に頭部を打ったかは明らかではない。)、4/19に通院し、異常所見は認められなかった。その後練習に参加し、頭痛や吐き気等がおきることもあったが、家族以外には話していない。

 原告は初心者だったため、5/3の試合には出場せず、出場選手の打ち込み稽古の相手になるなどしていたが、その際に投げられて発症した(この時に頭部を打ったかは明らかではない。)。

 

【判決要旨】

 柔道における傷害により廃失や死亡に至る事故も平成15年からの8年間で86件発生しており、そのうちの55.8%が中高生に発生している。かかる状況下において、指導教諭としては、生徒の健康状態や体力及び技量等の特性を十分把握してそれに応じた指導をし、事故の発生を未然に防止する義務を負う。

 しかしながら、脳しんとうに対する対応について本件事故当時具体的な指針はまだ確立されておらず、体育連盟柔道専門部の証人も、頭痛等の症状を認めなければ協議に復帰させることが一般的であったと述べており、顧問教諭においてより安全な指導方法を認識し得た事情はなかった。

 また、顧問は原告から異常がなかったとの報告を受ける一方、頭痛等の症状を訴えられることはなかったのであるから、本件発症を予見することは困難であった。

 原告は柔道を始めてから6日間、受け身だけを練習し、その後乱取り練習(実戦形式)を含めた練習に参加していたことからすれば、受け身をとる技術を有していたと推認することができる。

 原告は4/23以降、通常の練習に参加しており、大会出場選手らとも組んで練習していたし、高校の柔道部では倍程度の体重差があるもの同士で練習することもままあること、顧問は1年生同士で組むよう指導していたことなどの事情からすれば、顧問に、今回投げ技をかけた相手と稽古相手にしないようにする義務があったとは言えない。

 

【解説】

 この種の事案にしては珍しく学校側勝訴の事案。

 練習中に脳しんとうを起こすことはよくあることだし、頭痛等の症状について伝えられていない顧問としてはどうしようもない事案だろうと思います。脳しんとう後には練習も出ていたようですし。

 もっとも、ちょっとした頭痛くらいで練習を休むなんてのは言い出しにくいのがニッポンのブカツですよね。私は部活は廃止するか、ゆるっゆるのレクリエーションのみにするべきだと思っています。

 なおH24.4.7には、神奈川県高等学校体育連盟柔道専門部から、各高校柔道部顧問にあてて、柔道の試合及び練習中に脳しんとうを認めた生徒の対応について具体的な指針が示されています。あと、入部1ヶ月では受け身はおぼつかないと思いますが。

 こういう危ない競技を義務化しなくてもいいようなものですがねえ。