弁護士とんぐうの弁論準備

裁判例のメモとか。

さいころステーキによる食中毒事故について、ステーキチェーン店から食肉製造会社への損害賠償請求

東京地裁平成24年11月30日判決】

 判例タイムズ1393号掲載

 

【事案の概要】

 ペッパーランチを提供する原告は、高温に熱した鉄板の上に生肉等をのせた状態で提供し、顧客が好みの焼き加減でこれを食べるというサービスを提供してきたが、成形結着肉のさいころステーキを提供開始したところ、さいころステーキにO157が混入しており、果肉が不十分なまま食した顧客らが食中毒を起こした結果、営業上多大な損失を被ったとして、PL法に基づく製造物責任不法行為責任、保証責任に基づき食肉業者を訴えた。

 

【判決要旨】

 牛肉の結着肉にO157が混入することは避けがたいが、加熱によって無害化されるため、厚労省としては流通禁止としておらず、結着肉を加熱用食材として広く市場に流通していた。厚労省の対応も直ちに違法とされるものではなく、牛肉の結着肉に0157が混入していたとしても、加熱用食材として通常有すべき安全性を欠くものと言うことはできない。

 被告が納入した結着肉のダンボールには、結着肉であることと中心部まで十分加熱するよう注意書きがなされており、原告にはダンボールのまま引き渡されていることも推認できる。なお、仮りに注意書きの認識の有無を措くとしても、原告はさいころステーキの調理法についてフランチャイズ本部で管理統制しており、各店の認識を問題とする意味はない。しかも多数の店舗を展開する食肉調理業者であり、当時厚労省から注意喚起もなされていたのであるから、結着肉の特性を把握できなかったとは考えられない。したがって、被告らが原告に対して指示説明・警告を欠いたと言うこともできない。

 原告は、被告から保証書が差し入れられたことをもってO157が混入しないことを保証したと主張するが、結着肉についてそのような保証をすることは事実上困難である上、当該保証書の文言上もそうであると明確に読み取れるわけではない。しかも、保証書は中間業者である商社に差し入れられていたものを、原告から参考までに送るよう求められ、電子メールに添付して送付したものであるから、被告がO157が納入食肉に混入しないことを保証したものとは言えない。

 

【解説】

 事案自体はまあそうかなというもの。

 なお請求金額は12億円ということですが、着手金はいくらだったのでしょう(ゲス)。特に防御側は勝っても相手からお金が貰えるわけでもないので、勝利報酬をどう貰うかも悩むのよね。

 ちなみに、被告食肉業者は裁判で、加熱用であることは十分表示しており、消費者が十分に焼かずにO157に罹患しても自己責任であると述べたようで、判決の最後に、裁判所としては本事案と離れるからいちいちその主張がどうとか判断しないが、結着肉をステーキと称して提供することは知識の乏しい消費者に誤解を生じさせかねないのであって、的確な情報提供を欠いた場合には、食肉業者が免責されるということを本事案が示唆するものではない、とちくりと付言されています。