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弁護士とんぐうの弁論準備

裁判例のメモとか。

保険代理店で活動していた原告が給与を不当に下げられ退職に追い込まれたが,解雇とは判断できず,給与減額の慰謝料のみ認めた事案

【事案の概要】

 原告は,個人で三井住友海上火災保険株式会社の代理店を営んでいたが,その後代理店を廃業し,被告会社に入社した。

 その際,代理店業を営んでいた頃の顧客を持ち込むことにより,被告会社の営業にも寄与したが,被告会社はこの契約を奪取し,奪取後は原告の給与を不当に減額し,やがて退社に追い込んだものであって,①契約喪失の財産的損害について不法行為責任,②解雇無効と在籍し続けた場合に得られた給与額,などを求め訴訟提起した事案(三井住友も被告)。

 一審では,保険契約喪失は認めず,解雇無効を認め,判決確定の日まで給与額を支払うよう判決した。これに対し,会社側が控訴

 

【判旨】

 会社は慰謝料として250万円支払え。原告のその余の請求は棄却あるいは却下。

(認定事実のあらまし)

 原告は,平成13年に三井住友の代理店として営業を開始した。

 その後,被告代表者から誘われ,平成18年に原告は被告会社に入社した。この際,代理店業務と保険契約は被告が引き継ぐこととなり,原告の給与は30万円と定まった。

 原告が保有していた契約を引き継ぐことにより,被告会社は代理店としてのランクが上昇した。

 平成21年秋頃,被告は原告に対して,11月分は27万円,12月分は24万円,1月分は20万円と言及し,今後は毎年3月末の業績に応じて給与を決定する,と通知し,通知通り減給した。

 原告は,代表者に対して直ちに異議をとなえなかったものの,他の役員に不平を述べることはあった。また,三井住友に対して労働条件引き下げに関する問い合わせをした(三井住友は,代理店内部のことなので関知しないとの回答)。

 被告会社は平成22年5月分として17万4000円を支払った。

 原告は6月頃,給与の減額に応じるつもりはないと被告代表者に伝え,あわせて,期間3年の有期労働契約の締結と,退社の際には保険契約を返すように,との要望をしたが,決裂した。

 被告会社は,8月20日付で解雇するとの通知を7月27日に交付し,8月20日に,4月までの給与について月給30万円との差額について一括で支払った。

 原告は,7月のうちに解雇に関して労基署に相談し,また,三井住友に対して保険契約を返してもらって再び代理店として独立したいとの要望を行った。これに対し三井住友は,契約を戻すことはできかねるとの回答をした。

 原告は,7月29日,8月20までの有給休暇申請を行い,以後出社しなかった。

 

(判断のあらまし)

 原告が被告に移管させた保険契約がなければ,被告は特級代理店への昇格の条件を満たさなかったものであるから,原告の被告に対する寄与は少なくなかった。それにもかかわらず,給与を段階的に減額し,原告が退社するにいたっているが,これは被告が原告を退社せざるを得ない状況に追い込んだということができ,不法行為責任を免れない。

 なお,退社までの経緯を見れば,結果的には被告会社が原告から保険契約を奪い取ったと評価する余地もあるが,移管手続は適法になされている一方,原告が退社する際の取り扱いについては別段の合意はなされていない。したがって,被告会社が原告に対して保険契約を返還すべき義務又は代償金を支払う義務が発生する法的根拠はない。

 ところで,原告は解雇されたと主張しており,確かに離職票にも,解雇無効の裁判を予定しているとの記載があるが,原告は,有期労働契約を結ばなければやめると発言していること,最後に有給休暇を申請して出社せず,その後東京海上に就職(代理店のための研修として)しており,本件訴訟においても当初は不本意な退社をさせられたとの点を問題としていた。したがって,原告は被告から解雇された形になってはいるが,実質的には原告が退社したと認めるのが相当である。

 

【解説】

 まずなにより,会社から解雇通知を受けているのに,自主退社したとの結論はさすがに違和感を覚えざるを得ない。まあ実際の証拠状況から,体裁は解雇だが実質は合意解除と認定したんだろうが,判決文の事情だとそんな認定ができるんだろうか,という印象。

 認定された事実からは,私は不当解雇と認定すべきと考えますし,実際,一審でも不当解雇と判示されているんですよね。これが覆ったのは原告本人としても代理人としてもきついだろうなあ。

 なお,保険契約の奪取については一,二審通じて認めてもらえなかった模様。事案の全体像からすれば,被告会社の不当利得にあたるように思いますが,理論的に厳しいですかね。まあ,退職した場合の取り扱いを決めてなかったのは原告の手落ちというべきでしょう。そこは当然,退職時に誠実に話し合おう,ということになっていたかもしれませんが……。