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弁護士とんぐうの弁論準備

裁判例のメモとか。

職務質問を受けた者の呼出に応じて現場に臨場した弁護士が,職務質問に応じない旨明確に示しているのに,これを無視する形で行われた有形力の行使が任意捜査の限界を超える違法とされた事例

東京高裁平成27年10月8日判決

【事案の概要】

 被告人は,午後7時7分頃,職務質問を受けたが,氏名を名乗らず,所持品検査の求めにも応じなかった。その後,警察官らと共にローソンに移動したが,この間も,警察官らは被告人の移動を,身体を押すなりして妨害している状況であった。

 午後9時27分頃,被告人は,自分が呼んだ弁護士と合流し,タクシーに乗車した。

 なお,タクシーを探して移動している最中,警察官は20名で被告人らを取り囲み,このとき,警察官から制止されたかなんらかの事情で,被告人が転倒することがあった。

 この間,午後7時35分頃から,別の警察官が令状請求準備を開始しており,午後9時56分頃,発付された令状を受け取っていた。

 午後10時10分頃,パトカーでタクシーを追従していた警察官は,タクシーが首都高速入口へ近づいたため,令状執行をするに際して高速道路では困難だと考え,タクシーに停車を求め,これに応じたタクシーが停車すると,その周囲を包囲して移動できなくした上で,一般道を走行するよう求め,これに被告人らが応じたことから,タクシーの前方を空けて走行可能な状態にしたが,おりから,令状を携行した警察官が現場に到着したため,令状を執行した。

 警察官により被告人の身体捜索がなされたところ、覚せい剤が発見された。

 その後裁判において弁護人が上記経過は違法捜査でありその結果発見された覚せい剤を証拠として用いることは許されないと主張して無罪を争った事案。

 

【判旨】

 原判決破棄。

 被告人は有罪。

 高速道路への進行を妨害した時点では,捜索差押許可状は所持しておらず,また,弁護士から再三抗議を受けても,タクシーを動けない状況にしたのは,任意捜査の限界を超えている。

 したがって,原審がこの点を適法と認定した点は誤っている。

 もっとも,進路封鎖は短時間であり,既に発付されていた令状の執行を円滑にするためであり,令状主義を潜脱しようとする意図が警察官らにあったとまでは言えない。

 よって,現場での令状による捜索によって発見された覚せい剤を証拠として採用することは適法である。

 

【解説】

 結果的に覚せい剤持ってたんならアカンのとちゃうか,というのが一般的な感覚かと思われますが,結果論でOKとなると,怪しければ法律を無視してもいい,ということになってしまい,見た目が怪しいというだけで警察官から無茶な取り扱いを受けてしまいかねない,ということになってしまいます。令状というのは,裁判官が鼻くそほじりながら適当にハンコ押しているようにしか見えないようでも,一応,中立の司法機関が要件をチェックしているということになっていますので,原則としては,令状無しでの逮捕や捜索は許されていないのです。

 一方で,職務質問をして答えてくれないからしょうがないか,では治安が守れないというという事情もあるので,職務質問に非協力的な人間に対しては警察官がすごい勢いでまとわりついてきますし,1,2時間取り囲まれて動けなくされても,裁判所はそんくらいならOKという態度を取っています。

 今回の事案では弁護士が出てきて協力しないよと明確に告げて移動しようとしているので,これでも移動を妨害されるのがOKとなると,弁護士の権威が地に墜ち――じゃないかった,事実上職務質問は何をしても良いって事になりかねません。

 すでに職務質問をお断りして車で移動を開始したのに,令状を現に持っているわけでもないのに車を止めさせて進路妨害している警察官の行為について,適法だとした第一審の裁判官の感覚には驚きです。

 というわけで,さすがにこの点については違法を宣言したようです。

 で,違法な職務質問が先行していて,進路妨害も受けている中で,捜索差押令状が届いたので調べてみると,覚せい剤が出てきた,という流れになっています。

 ここで,どんな違法な捜査であろうが覚せい剤が出てきさえすれば動かぬ証拠,とすると,結局違法な職務質問をしていても結果オーライということになりますよね。

 そこで,違法捜査に歯止めを掛けるため,本来令状がなければできないようなことを,令状無しでやってしまって,それで出てきた証拠で有罪にするというのでは,令状の意味が無くなってしまうから,証拠として使えません,という判例ができました。

 所持品検査とか職務質問のいきすぎが争われた事案はたいてい,実際に薬物を持っていたので執拗に拒んだ事案が多いです。まあ,後ろ暗いところのない一般人は,あくまで任意だから応じる必要はないと貫き通すようなことはしませんので,なにも悪い物を持っていないのに多数の警察官らから執拗な説得を受けて数時間も無駄にさせられる,ということはないのですね。したがって,事例として出てくるのは結果オーライの事案(つまり,ちょっとやりすぎたけど実際持ってた)ばかりです。

 そうした実情もあってか,最高裁は,覚せい剤使用が疑われる人間に職務質問した警官が,被疑者が運転していた車の鍵を奪い取って,6時間に渡ってその場に居させ続け,強制採尿令状が来るのを待っていた事案でも,OKとしています(H6.9.16判決)。

 日本の刑事司法の実情からすれば,今回の結論も非常識なものではない,ということになるでしょう。しかし,何も後ろ暗いことのない一般市民が,令状がないから協力できないと告げて,過度の負担を負うようなことがあっては困ると思うのですが……。