弁護士とんぐうの弁論準備

裁判例のメモとか。

自動車を用いた連続窃盗等事件について,GPSを利用して行われた捜査について,令状がなく行われた強制処分であり,得えられた証拠等は証拠能力無しとした事例

【事案の概要】

 警察は,当時多発していた窃盗事件について,そのうちの一つは現認しており,被告人及び共犯者の逮捕自体は可能な状態であったが,連続窃盗事件であり,事案の全容を確認しつつさらに客観的な証拠を収集しようと考え,内偵捜査を継続した。

 この際,①被告人らのアジトと目された場所を監視し,公道や,近隣で借りた集合住宅から被告人らの様子を撮影・記録し,②郵便ポストの隙間から内部の郵便物を撮影し,③被告人らが使用していると疑われた車両19台に対してGPS端末を取り付けて,位置情報を取得した。なお,端末のバッテリーは4日ほどで切れるため,警察官らは,商業施設の駐車場等で端末の交換を行っていたが,これを行うに際して当該施設の管理者の承諾を得ておらず,令状の発付も受けていなかった。

【判旨】

 逮捕可能な状態からさらに泳がせること自体は,共犯者の逃亡・証拠の散逸を防ぐという意味で合理的であり,身柄拘束をせず捜査を続行したことは許される。

 捜査方法として,①による監視は,公道や他者の住居等から見ることのできる部分を記録したというにすぎず,そもそもプライバシー侵害の程度も薄い。

 ②については,通信の秘密との関係や,プライバシー保護の期待の高い空間であること,原則として郵便受け内部の捜索には令状が必要であることなどの事情からすれば,ポストの内部を撮影した行為は,差出人や受取人のプライバシーを大きく侵害し,令状が必要な強制処分に該当するから,無令状で行われた今回の捜査は違法である。

 ③については,公道以外の場所(今回の場合ラブホテルの駐車場も含まれていた),つまりプライバシー保護の要請が高い場所に所在する場合にも位置情報を取得しており,プライバシー侵害の程度は大きい。

 また,端末の取り付けや取り外しの際には不可避的に私有地に立ち入ることも想定されているが,本件では多数の者が自由に出入りすることが予定されていない場所での交換もなされており,私有地の管理権を侵害する形で行われていることも見逃せない。

 GPS捜査は,捜査官が位置情報を五官の作用によって観察するというものであるから,検証許可状を取り付けるべきであった。したがって,令状無く行われた本件捜査は違法である。

 そして,これらの捜査に際しては,令状を取り付けようと努力した形跡はなく,検察官にも伏られており,令状主義を没却し,将来の違法捜査防止の見地より,証拠能力を排除すべきと考える。

【解説】

 逮捕や捜索・差押え等をするにあたっては,裁判所の発付した令状が必要とされています。これは,犯罪と疑われる場合であっても,きちんとした手続に則って取り扱われるべき権利が憲法上定められているからです。

 近年,X線照射によって所持品をこっそり検査するとか,公道上の無人撮影機によって,ある時間にある場所にいたことを証拠化するなど,刑事訴訟法を定めた頃には想像もしていなかった捜査手法について,令状が必要なのかどうなのかについて議論されています。

 令状が必要かどうかは,「個人の意思を制圧し,身体,住居,財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など」にあたるかどうかがメルクマールとなっています。

 X線やGPS端末による捜査は,それによって被疑者の意思を制圧するようなものではないので,強制捜査ではない,つまり,令状は必要なく警察が勝手にやっていい,という解釈で,警察が捜査をしていたのですが,今回,GPSによる捜査について違法と判断されたのでした。なお,X線検査についても,別事件で強制処分であるとの認定がなされています(最判平成21年9月28日判タ1336号72頁)。

  なおこの事件,検察官が控訴して高等裁判所では強制捜査ではないとされ,さらに上告されて最近,最高裁判決がでました。控訴審最高裁の内容はまた後日。