弁護士とんぐうの弁論準備

裁判例のメモとか。

警察官による取り調べが不当な態様であったとして,損害賠償が認められた事例

【事案の概要】

 傷害事件の被疑者として,任意で(つまり逮捕されずに)取り調べを受けていた原告が,警察官から,恫喝・脅迫的,あるいは侮蔑的な言葉をかけられ,指紋の押捺の強要や調書の記載内容の訂正を無視するなど,不当な取り調べを受けたとして損害賠償を求めた事件。

【判旨】

 行きすぎた犯罪捜査があったと認定し,慰謝料として100万円が相当と判断した。

 裁判所の認定した警察官の発言「さっさと認めろ,殴ったやろ」「なあ,小学校の先生やってきて,ようあげくこれですか」「恥ずかしいと思いませんか」「ガキやから,適当に言うとったら,あしらっとったんちゃうん。ええ,12歳のガキまで,適当にあしらっとったら,先生,先生言うてくるから,適当に答えとったんやろ」」「人間やっぱり年っていうたらプライドだけが残るな」「ぐじゅぐじゅ,ぐじゅぐじゅ否認たれる」「じゃあ誰が嘘ついてんや」「知らんは通さん」「考えろ。これ命令やで」

 こうした言動は,社会通念上相当性を逸脱した態様で供述や自白を強いるものであり,不当な人格攻撃に及ぶ発言を繰り返すものであって,全体として社会通念上相当性を逸脱した違法な取り調べであった,と判示した。

【解説】

 ちなみに,大阪府警でのできごとです。

 被疑事実は傷害で,被害者からは,「原告に胸ぐらを掴まれげんこつで一回殴られた」という被害申告がなされていました。

 原告は身に覚えがないと主張していますので,原告か被害者か,どちらかが嘘をついているということになりますね。こうした場合,とりあえず双方の言い分を聞いた上で,それぞれの話を裏付ける客観的な証拠があるか無いかを探すのが常道だろうと思いますが,まあちょいとひねって自白をすれば,楽ができるというものです。

 今回,録音することができたため,違法な取り調べを受けたことが明らかになりましたが,録音が無くて原告の記憶だけ,となると裁判所が原告の証言を採用してくれるかどうかは怪しいものですね。この事件は大きくニュースで取り上げられましたから,全国の警察署で,取り調べ前に録音されていないか徹底的にチェックすることになったかもしれません。

 厳しい取り調べによって言い逃れをしていた真犯人が耐えきれずに自白し,真相が明らかになるということもありますが,一方で,厳しい取り調べを行えば,無実の人が精神的に耐えられず嘘の自白をしてしまうこともあります。

 自白が本当に本人の意思によるものなのか,今回のような不当な取り調べがなされていないのか,全ての取り調べに関して録音録画を実施すべきでしょう。

 一発殴られて打撲傷,というレベルでも,「私はやっていません」と言うとここまで追い込んでくるのですから,もっと深刻な事案で否認した場合に,捜査側がどのように取り扱ってくるかというのは想像するに恐ろしいものですね。