弁護士とんぐうの弁論準備

裁判例のメモとか。

自転車事故を起こした未成年とその保護者の責任

【大阪高裁平成23年8月26日判決】

 判例タイムズ1387号掲載

 

【事案の概要】

 自宅付近の路上に立っていた85歳のXが、14歳のYが運転する自転車に衝突され、後遺障害を負ったとして、Y及びその両親に損害賠償を求めた事案。1審では両親の責任が否定されたためXが控訴、なおYらも損害の認定を争い附帯控訴。

 

【判決要旨】

 Yは当時中学2年生であり、十分に民事上の責任能力が認められる。

 Yの両親については、当時Yが、①社会通念上許されない程度の危険行為を行っていることを知り、又は容易に知ることができたことや、②他人に損害を負わせる違法行為を行ったことを知り、そのような行為を繰り返すおそれが予想可能であることについて、控訴人は、具体的な主張、立証をしていないのであるから、両親の責任は認められない。

  

【解説】

 近年、自転車と歩行者との事故が増加傾向にあります。もっともこれは、事故が増加したと言うより、事故認知件数が増加、つまり、自転車との事故であっても警察に届け出る人が増えたということではないかと私は考えています。

 自転車事故による被害には保険で賠償してもらえない場合も多く、自ら保険加入で自衛すると共に、事故後の対応については弁護士に相談するなどして対応を検討する必要があるでしょう(営業)。

 さて、今年の7月4日に、神戸地裁で、11歳の少年が運転していた自転車を高齢者に衝突させ、少年の母親に対し、約9500万円の賠償責任を認める判決が出ました。同判決の詳細な内容は確認できていませんが、本件と大きく異なる事情があります。それは、加害少年の年齢です。

 11~12歳ころまでは、少年の判断能力が完成しておらず、こうした、責任能力が無い少年が他人に損害を与えたとしても、賠償責任を負わないと規定されています(民法712条)。その場合は、監督義務者(両親等)が少年の監督義務を果たしていないことについての責任を負うことになります。(注1)

 本件では、事故当時中学2年生で、裁判中に高校進学も果たしており、十分な責任能力が備わっていた、つまり、自転車を運転するにあたり、スピードを出しすぎたり脇見をしてはいけないということはわかっていたはずだ、となったのです。まあ中学2年生ですから普通はそうですね。

 そうなると本件は、本人がわかっていたのに不注意で事故を起こした、という事案であって、これは大人が事故を起こしたのと同じである、つまり、親が責任を負うべきものではないということになります。子供のしたことは親の責任、というのは世間からそのように非難されることはあるとしても、法律的にはそうでないこともあるわけです。

 もっとも、未成年者に責任能力があっても、未成年者は通常、資産を持っていませんし、被害者としてはむしろ親に責任を問いたいという場面も少なくありません。そこで、最高裁は、(責任能力がある)未成年者の不法行為について、監督義務者の具体的な義務違反が認められるのであれば、未成年者の不法行為は、監督義務者自身の不法行為と考えてよい、としています(最判昭和49年3月22日)。

 本件でいうと、少年の事故による被害者の怪我が、少年の両親が少年に対してきちんと指導していなかったことによるものだと立証できれば、両親の賠償責任が発生する、ということになります。とはいえ、中2男子に「周りに配慮して安全運転しなさい」と言っても聞くわけ無いので、漠然と指導不足と主張するだけでは認められません(指導が行き届いていれば事故は起こらない、という結果責任的な論法になってしまいます。)。

 そこで、本件判決が指摘するように、事故を起こした少年が日常的に極めて危険な乗り方をしていたことを知っていたなどといった事情(さらにそれを両親が知っていて止めなかった、という事情も必要でしょうね。)が必要になります。

 本件ではそうした事情の主張がない、ということで両親の責任は認められませんでした。立証が難しいというのはありますが、そもそも主張もされていない、というのはどういうことなのでしょうかね。

 

注1 監督義務を果たしたとの証明があれば監督義務者も責任を免れますが、ちょっと聞いたことがありません。なお、11歳でも十分な判断能力がある、と判断されるケースはありえます。民法には年齢で規定されているわけではないので。