弁護士とんぐうの弁論準備

裁判例のメモとか。

耐震強度不足を見逃した指定確認検査機関に対する損害賠償請求は認められたが、地方公共団体に対する請求は認められなかった事例

横浜地裁平成24年1月31日判決】

 判例タイムズ1389号掲載

 

【事案の概要】

 株式会社ヒューザーが分譲したマンションを購入した原告らが、マンションには耐震強度不足の瑕疵があるとして、建築確認を行った指定確認検査機関及び横浜市、設計を行った建築設計事務所、及びその代表者らに対して損害賠償を求めた事件。

 

【判決要旨】

 指定確認検査機関及び設計事務所、その代表者らには損害賠償義務があるが、横浜市にはない。

 指定確認検査機関の指定は、国土交通大臣又は都道府県知事が行うものとされ、これらには監督命令や報告・検査、指定の取消や業務停止命令等を行うことができる。一方、特定行政庁はこうした監督権限は与えられておらず、建築確認に際してその内容について、特定行政庁が構造計算書を提出させるなどして詳しい報告を受けることは、法律上予定されていない。

 指定確認検査機関は、自ら設定した手数料を収受して、自己の判断で建築確認業務を行っており、その交付した建築確認済証は、建築主事が交付したそれとみなされる。そうすると、指定確認検査機関は、行政とは独立して建築確認業務を行っているのであって、その建築確認に瑕疵がある場合には、その国賠法上の責任は指定確認検査機関自身が負う。

 

【解説】

 民間の方が効率が良い、ということで役所の仕事を民間に委譲するというのが昨今のはやりですが、つまるところ、儲けのために色々と見えない部分でどがちゃがすることもある、ということですよ。

 まあ、これで自治体が責任をとっていたら、指定確認検査機関はモラルハザードを起こすだけなので、当然の結論ですね。

 ちなみに最近近くの法務局の窓口業務が、民間に委託されたようで、ちょいと込み入った質問をするとよく分かりませんと返されてとてもお困り。まあ法務省も予算が厳しいですからねえ。

 ぜんぜん判決内容の解説じゃないね。

 

林間学校中に小5生徒が宿泊施設で転落したのは引率教員に過失があるとされた事例

【大阪地裁平成24年11月7日判決】

 判例タイムズ1388号掲載

 

【事案の概要】

 被告東大阪市が主催する林間学舎に参加していた小学校5年生の女子児童Xが、民宿の2階の部屋内で、他の児童らと鬼ごっこをして遊んでいたときに、部屋の出窓のカウンター部分に上がり、そのまま後方にもたれようとして窓ガラスの方に体を傾けたところ、窓ガラスが空いており、そのまま出窓から建物外の地面に転落し、脳挫傷等の傷害を負った。

 

【判決要旨】

 林間学舎のように、子供らが親権者の監護状況を離れて、日常生活における状況と比較して、相対的に少ない教員らにより、日常生活と異なる生活空間で、友人らと宿泊するような場合には、子供らの監護が、日常生活の場合と比べて手薄になる反面、子供らが非日常的な体験をすることで、通常であればしないような行動に出る蓋然性が高いのであるから、教員らは、具体的に予見可能な危険性について告げるなどして危険な行為をしないよう指導すべき注意義務を負っている。

 本件において、出窓のカウンター部分に子供が上がることなどは容易に予見できたというべきである。したがって、教員らは子供らに対して、本件出窓のカウンター部分に登った場合、誤って転落する危険性があることについて十分に指導をした上で、ガラス窓を開放しないよう指示したり、カウンター部分に上がらないよう注意喚起したりすべきであった。

 もっとも過失相殺として4割を控除する。

 

【解説】

 教員は、小5ともなれば言わなくても危険性は分かるはずであると判断し、カウンターに上がってはいけないとは言わなかったようです。ですよねえ。

 ちなみに市側は、当該宿泊施設の客は半分は学校関係児童だが、これまで40年間一度も転落事故など起きていない、と主張しています。ま、これまで起きてなくても危険性はずっとあった、と言われればそれまでなんですよね。

 具体的に予見可能な生命身体への危険性は具体的にいちいち注意しなければならないというのは結構大変なんじゃないでしょうか。児童の判断力や想像力の成長を促すという観点からはどうかと思わないでもないですが、国家賠償の世界ではそうした父の子育て的な態度は通らないのです。

 まあ、小学生が親や教師の監視が緩い中で寝泊まりする2階の部屋の窓に、手すりや防護柵ついていないという状況は確かに安全とは言い難いでしょうから、結論自体不当だとは感じません。過失相殺は5割くらいが妥当だと思いますが。

 

預金口座についての弁護士会照会に対する報告義務が認められた事例

【東京地裁平成24年11月26日判決】

 判例タイムズ1388号掲載

 

【事案の概要】

 Xは、Aに対する債務名義を有しており、これについてAの銀行預金に対して差押をしたが、残高がなく、その他把握できたAの財産すべてについて各種強制執行を行ったがいずれも功を奏しなかった。そこでXから債権回収を受忍していた弁護士が、弁護士会を通じて、「YにはA名義の口座があるか、ある場合はその支店名や口座番号、預金残高等を回答されたい」などと弁護士法23条の2に基づく照会をY銀行に行ったが、Y銀行は預金者の同意が確認できないとして回答を拒んだ。

 そこでXが、Yには報告義務があることの確認を求めて提訴にいたった事案である。

 

【判決要旨】

 Yには報告義務がある。

 弁護士会照会制度は、国民の権利救済の実現に資するという司法制度上の要請に基づき、法律により報告を求める権限を弁護士会に定めたものであり、正当な理由がない限り、照会を受けた団体等は報告をすべき公法上の義務を負っている。

 照会制度の重要な役割や、決済機能を独占しているという銀行の公共的責務からすれば、単に顧客の同意がないとの理由のみで報告を拒む正当な理由があるとは言えない。

 Xとしても、執行すべき財産を手を尽くして探索したが発見できず、財産開示手続により債務者の財産が開示される見込みもないのであり、Xの実効的な権利救済のために報告を求める必要性が極めて高い。

 一方銀行としては、Aの預金状況は、債権者であるXとの関係において保護されるべき営業秘密(顧客や関係者に対する守秘義務に基づく秘密)とは言えないことが明らかである。

 したがって、Yは弁護士会に対し、報告義務を負っている。また、Yが公法上の義務を履行しないことによって債務名義による債務者に対する権利の実現が妨げられているのであるから、Yによる権利実現の妨害を排除して権利救済を受けるため、報告義務のソンすることの確認を求める利益がある。

 

【解説】

 弁護士には、弁護士法23条の2という法律に基づいて、弁護士会を通じて企業や病院、官公署等に対して質問書を出すことができます。

 もちろんなんでも聞けるというわけではなく、一定の必要性とその内容の関連性について弁護士会がチェックした上で送られてきます。

 ところが結構無視されるんですよね。法律上の義務なんですけど。裁判所が依頼するとホイホイ答えるのにね。

 あくまで弁護士会が報告を求める、という体裁のため、照会を求めた弁護士やその依頼人が裁判の原告になって報告を直接請求できない、あるいは、回答しないところを相手にいちいち裁判をするコストを依頼人に負担させられない、といった事情から、これまで弁護士会照会を無視されても泣き寝入り(弁護士が!)していたのですが、やはり判例は作らないといけませんね。

 銀行の預金状況なんて、守秘義務があるから、とこれまで拒絶されてきたわけですが、この裁判例のおかげで、手順さえ踏めば回答してもらえるようになるかもしれません。

自転車事故を起こした未成年とその保護者の責任

【大阪高裁平成23年8月26日判決】

 判例タイムズ1387号掲載

 

【事案の概要】

 自宅付近の路上に立っていた85歳のXが、14歳のYが運転する自転車に衝突され、後遺障害を負ったとして、Y及びその両親に損害賠償を求めた事案。1審では両親の責任が否定されたためXが控訴、なおYらも損害の認定を争い附帯控訴。

 

【判決要旨】

 Yは当時中学2年生であり、十分に民事上の責任能力が認められる。

 Yの両親については、当時Yが、①社会通念上許されない程度の危険行為を行っていることを知り、又は容易に知ることができたことや、②他人に損害を負わせる違法行為を行ったことを知り、そのような行為を繰り返すおそれが予想可能であることについて、控訴人は、具体的な主張、立証をしていないのであるから、両親の責任は認められない。

  

【解説】

 近年、自転車と歩行者との事故が増加傾向にあります。もっともこれは、事故が増加したと言うより、事故認知件数が増加、つまり、自転車との事故であっても警察に届け出る人が増えたということではないかと私は考えています。

 自転車事故による被害には保険で賠償してもらえない場合も多く、自ら保険加入で自衛すると共に、事故後の対応については弁護士に相談するなどして対応を検討する必要があるでしょう(営業)。

 さて、今年の7月4日に、神戸地裁で、11歳の少年が運転していた自転車を高齢者に衝突させ、少年の母親に対し、約9500万円の賠償責任を認める判決が出ました。同判決の詳細な内容は確認できていませんが、本件と大きく異なる事情があります。それは、加害少年の年齢です。

 11~12歳ころまでは、少年の判断能力が完成しておらず、こうした、責任能力が無い少年が他人に損害を与えたとしても、賠償責任を負わないと規定されています(民法712条)。その場合は、監督義務者(両親等)が少年の監督義務を果たしていないことについての責任を負うことになります。(注1)

 本件では、事故当時中学2年生で、裁判中に高校進学も果たしており、十分な責任能力が備わっていた、つまり、自転車を運転するにあたり、スピードを出しすぎたり脇見をしてはいけないということはわかっていたはずだ、となったのです。まあ中学2年生ですから普通はそうですね。

 そうなると本件は、本人がわかっていたのに不注意で事故を起こした、という事案であって、これは大人が事故を起こしたのと同じである、つまり、親が責任を負うべきものではないということになります。子供のしたことは親の責任、というのは世間からそのように非難されることはあるとしても、法律的にはそうでないこともあるわけです。

 もっとも、未成年者に責任能力があっても、未成年者は通常、資産を持っていませんし、被害者としてはむしろ親に責任を問いたいという場面も少なくありません。そこで、最高裁は、(責任能力がある)未成年者の不法行為について、監督義務者の具体的な義務違反が認められるのであれば、未成年者の不法行為は、監督義務者自身の不法行為と考えてよい、としています(最判昭和49年3月22日)。

 本件でいうと、少年の事故による被害者の怪我が、少年の両親が少年に対してきちんと指導していなかったことによるものだと立証できれば、両親の賠償責任が発生する、ということになります。とはいえ、中2男子に「周りに配慮して安全運転しなさい」と言っても聞くわけ無いので、漠然と指導不足と主張するだけでは認められません(指導が行き届いていれば事故は起こらない、という結果責任的な論法になってしまいます。)。

 そこで、本件判決が指摘するように、事故を起こした少年が日常的に極めて危険な乗り方をしていたことを知っていたなどといった事情(さらにそれを両親が知っていて止めなかった、という事情も必要でしょうね。)が必要になります。

 本件ではそうした事情の主張がない、ということで両親の責任は認められませんでした。立証が難しいというのはありますが、そもそも主張もされていない、というのはどういうことなのでしょうかね。

 

注1 監督義務を果たしたとの証明があれば監督義務者も責任を免れますが、ちょっと聞いたことがありません。なお、11歳でも十分な判断能力がある、と判断されるケースはありえます。民法には年齢で規定されているわけではないので。

 

弁護士会の役員として参加した懇親会費用を経費として算入できるか

【東京高裁平成24年9月19日判決】

 判例タイムズ1387号掲載

 

【事案の概要】

 Xは、弁護士業を営んで事業所得を得ているものであるが、弁護士会日弁連の役員等も務めていた。Xはこれら弁護士会等の行事に伴う懇親会に出席し、その際に飲食費等を支出したが(その他、役員に立候補した際の活動費用や他の役員の家族の逝去についての香典費等を含む。)、同費用を自身の弁護士業の経費として計上し、確定申告したところ、税務署は、必要経費として認めなかったためXが処分取り消しを求めて訴えた事案。一審敗訴。

 

【判決要旨】

 一部勝訴

 弁護士会日弁連の役員としてその権限内でした行為の効果は、弁護士会等に帰属するものであり、Xが役員として行う活動は、弁護士会等の業務になるとしても、弁護士としてのX個人の「事業所得を生ずべき業務」として認めることはできない。

 もっとも、役員等としての活動であっても、Xの業務に必要な支出であれば、Xの事業の必要経費に該当するということができる。弁護士会等の活動は弁護士によりなされるものであり、会の活動に従事することは、弁護士個人の業務に密接に関係する。したがって、弁護士会等の役員等としての活動に要した費用が、その役員等の業務の遂行上必要な支出であったと言うことができるのであれば、弁護士としての事業所得の必要経費にも該当すると解する。

  

【解説】

 全国の弁護士は、都道府県単位で弁護士会、という(岡山弁護士会とか広島弁護士会とか。東京は大きいので3つもある。)自治団体を作っています。この自治団体で、お互いに法律や裁判例の研修・研究をしたり、ボランティア活動(人権擁護活動や当番弁護制度、学生の法廷傍聴の案内などもします。)をしたり、問題のある弁護士への懲戒などを行っています。

 団体があれば役員もいるので、持ち回りとか互選とかで(まあ場合によっては立候補して熾烈な選挙戦の末)、会員である弁護士が役員になります。無報酬のことも多く、本業が滞るくらい忙しいようです。

 以前、判例タイムズで、この事件の一審(徴税されたことを不服とする弁護士Xが敗訴)が紹介されており、ただでさえ金と時間を使わされるのに、経費としても認めてもらえないとなると負担が大変だな、と思ったことがあります。一部勝訴とありますが、経費として認めにくい二次会費用のようなものが削られたくらいで、おおむねXの主張が通っているように思われます。

 

他人の犬の死を悼む

 はてなサービスのマスコット犬、通称「会長」ことしなもん氏が亡くなったそうだ。

 わたし自身、しなもんブログの愛読者でもあったし、実家で飼っているコーギーも高齢化していることもあり、まるで愛犬の死のプレ体験のようだった。お悔やみを申し上げたい。