弁護士とんぐうの弁論準備

裁判例のメモとか。

ケンコーコム判決

【最高裁平成25年1月11日判決】

 判例タイムズ1386号掲載

 

【事案の概要】

 厚労省は、薬事法を改正する法案を作成し、平成18年3月に内閣から国会に提出された。同法案の作成にあたっては、検討部会において、対面販売を原則とすることなどを基本方針とすることが議論された。

 審議の上、同法案は可決成立し、その後厚労省は平成20年11月、郵便等販売については一定の医薬品に限り行うことができ、それ以外の医薬品は店舗において専門家との対面により行わなければならない旨の施行規則を定めた。

 そこで、それまでインターネットを通じた医薬品の郵便等販売を行っていた事業者であるXが、同規則を無効として訴えた事案である。

 1審では国が、2審では原告が勝訴していた。

 

【判決の要旨】

 上告棄却。

 旧薬事法の下では違法とされていなかった郵便等販売に対する新たな規制は、郵便等販売をその事業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約でするものであることが明らかである。新施行規則が新薬事法の趣旨に適合し(行手38条1項)、その委任の範囲を逸脱したものではないと言うためには、立法過程における議論をも斟酌した上で、新薬事法中の諸規定を見て、郵便等販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が、上記規制の範囲や程度等に応じて明確に読みとれる事を要するものというべきである。

 しかるところ新薬事法36条の5,6は、分離上は郵便等販売の規制並びにテンポにおける販売、授与及び情報提供を対面で行うことを義務づけていないことはもとより、その必要性等について明示的に触れているわけでもなく、販売等の方法の制限について定める新薬事法37条1項も、郵便等販売が違法とされていなかったことの明らかな旧薬事法当時から実質的に改正されていない。

 検討部会や国会審議等で、郵便等販売の安全性に懐疑的な意見が多く出されたということだが、にもかかわらず、郵便等販売に対する新薬事法の立場は不分明であり、国会が第一・二類医薬品にかかる郵便等販売を禁止すべきと考えていたとは考えにくい。

 そうすると、新薬事法の授権の趣旨が、第一・二類医薬品にかかる郵便等販売を一律に禁止する旨の省令の制定までをも委任するものであったと解するのは困難である。

 したがって、新施行規則の当該部分は、一律禁止という限りで新薬事法の趣旨に適合せず、委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効である。

 

【検討】

 立法過程では対面販売優遇で行くつもりだったのに、完成した新法の条文が、裁判所から見るとネット販売を規制するようには見えないものだった、という喜劇。これが厚労省の手落ちだったのか、あえてフラットな条文にしておいて規則でどがちゃがやろうとしていたのかは不知。

 立法過程の議論は宝の山だし、解釈指針として説得力もあるけど、やはり条文からどう読み取れるか、が重要ということですね。

 ところで、このエントリのためにケンコーコムをのぞいてみたのですが、頑張って説明してますねえ。薬剤師にメールやTV電話で相談もできるし、自己申告でスクリーニングもしている。ただ、あまり熱心に読まない消費者について問題が発生したらどうなるんでしょうね(多分そうなるでしょう。)。楽な方法を選んだ消費者の責任でしょうか、説明を尽くさなかったネット事業者の責任でしょうか。一般論としては、対面販売より大量・低コストな取引が可能になっている事業者が危険を負担すべき、となると思うのですがさて。