弁護士とんぐうの弁論準備

裁判例のメモとか。

高齢者が証券会社を通じて行った外国投資信託等の取引について、適合性原則違反がないとされた事例

【東京地裁平成23年5月25日判決】

 判例タイムズ1395号掲載

 

【事案の概要】

 原告は昭和9年生まれの女性で、昭和57年ころまでに、被告証券会社との取引を開始した。平成18年ころから被告の勧誘により、外貨建債券、外貨建仕組債、外国投資信託、外国株式の取引をおこなってきたが、これらの取引を通じて2000万円を超える損失を出した。そこで、原告が被告に対し、上記商品の勧誘は適合性原則違反、説明義務違反により違法であると主張し、損害賠償を求めた事案。

 

【判決要旨】

 請求棄却。

 原告は、20年以上国内株式や国内債券の売買を断続して行ってきており、被告以外にも5者の証券会社と取引口座を開設している。本件取引を開始した際、71歳ではあったが、これまでの投資経験から、株式投資等について相当の知識や経験を得ていたものと推認される。

 本件取引商品は、外国商品ではあるものの、通常の投資信託や債券等と変るものではなく、リスクとしても著しく高いわけではなかった。原告にとって著しく理解が困難な内容の金融商品であると認めることはできない。

 原告は、本件取引に用いた資金について、被告に対して余裕資金であると申告しており、リスクを最小限にとどめるべき要請があったとまでは言えない。原告は、従来の被告担当者が異動するとの挨拶を行った際に、であれば被告での取引はやめたいと申告したが、その後別の担当者を紹介され、取引を継続しているのであり、投資を止める意向を有していたとまでは言えない。

 原告は現在認知症に罹患しているが、平成18年頃の状況について医学的な資料はなく、直ちに取引時の理解力の低下を疑わせるものではない。確かに、担当者らとの通話記録からは、原告が相づちを打つ程度の応答が相当多いが、理解力の低下を疑わせるとまでは言えない。

 

【解説】

 適合性原則というのは、顧客の投資に関する知識・経験を無視して商品を勧誘してはいけない、という原則。お金が余ってる高齢者に対し、大手銀行や証券会社が、そのネームバリューだけで安心させて、ハイリスクな商品を売ってはいけない、ということ。けっこう横行してますけどね。

 本件は、判決の認定から逆算すれば、何十年もの投資経験のあるベテランの金持ち(数億円規模で投資している模様)が、新しい商品に手を出したら損こいたので、証券会社を訴えたが負けた、というもの。

 しかしまあ、5社も口座開設とか管理が面倒なだけでメリット無いような気がしますが。勧誘を断れないタイプの高齢者じゃないのという気がします。相づちを打つだけとか認知症になる3年前の取引とか、結構グレーな要素が詰まっているように見えますがねえ。